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The locus of the moon

The locus of the moon

ありのままで行こう―第1話―

ありのままで行こう。~It is plain and I will go~
― 第1話 ―


高校の入学式の朝、早瀬みちるはいつものように考えていた。
”普通って何?”
みちるは小さい頃から色んな人に”少し変わった子”と言われ続けてきた。
本人はいたって普通のつもりなのに、”変わっている”というレッテルを貼られつづけてきた。
身長151センチ。体重45キロ。癖のある髪の毛を腰まで伸ばしたみちるの風貌はいたって”普通”。
みちるの両親は”変わった子”とみちるを認識していないらしく、何故自分の子供がそんな風に言われるのかといつも怒っている。
”だから普通ってなんなのよ”
みちるは腰まである髪の毛をにブラシを入れ、真新しい制服の胸のリボンを結び終えると鏡の中の自分に向かってしかめっ面をしてみせた。
”私はいたって普通だっての。みんな寄ってたかって人を珍獣みたいに・・・”
そんな事を考えていると家のチャイムが鳴らされた音がした。
10年変わることなく続いてきた朝の光景だ。
幼馴染の氷川藍がみちるを迎えにきたのだ。
「みちる、藍ちゃんが迎えに来たわよ。降りてらっしゃい」
と母がいつも通りみちるの部屋のドアをあけて、おきまりの言葉を言ってきた。
その言葉を聞いてみちるもいつも通りに答える。
「もう準備できたからすぐに行く。」
いつもと全く変わらない朝だった。


階段を降りて玄関にいくとショートボブの背の高い少女がみちるが来るのを待っていた。
「おはよ、みちる。早くしないと入学式に間に合わないよ。」
とその少女、氷川藍はみちるへと片目だけウィンクしながら楽しげに言った。
みちるは靴を履きながら、藍の足元から上へと目をやりながらいつもとは違う台詞を言った。
「藍・・・何その大きな紙袋。入学式なんだからそんなに荷物必要無いはずだよね?」
そう、藍は学校指定のカバンのほかに大きな紙袋を持っていたのだ。
みちるの言葉を受けて藍は大きな声で笑いながら
「ああ、これ?気にしない、気にしない。必要と思われるものを用意しただけだから。」
とみちるに向かって不思議な答えをしてみせた。その言葉にみちるは
「必要と思われるものって何?」
と、当然のように聞いた。しかし藍は
「ま、とりあえず学校行けばわかるって。ほら、遅れるよ。急いだ急いだ。」
と、みちるをせかしはじめた。その言葉を聞きみちるは腕時計に目をやると・・・確かに急がないと間に合わない時間だ。
みちるは大急ぎで靴を履きカバンを持つと、母に
「じゃあ入学式でね。いってきます。」
と言って家を飛び出した。
学校までの道のりに藍を問い詰めたが、結局大きな紙袋の中身は教えてもらえなかった。



みちる達の入学した”私立藤ノ宮学院”は会社の社長令嬢や子息が通うので有名な学校だった。
みちるや藍の両親も普通のサラリーマンではなく、みちるの父親は小説家、母親は雑誌の編集者という家庭。
藍の父親は有名な建築デザイナー、母親はインテリアデザイナーという家庭だったので藤ノ宮学院へ行きたいと二人が両親に告げてもさほど驚く事はなかった。むしろ藤ノ宮の卒業生だったみちると藍の母親は喜んで娘の言葉に賛成したのだった。
”私立藤ノ宮学院”は自由な校風で有名な学校でもあり、みちると藍の母親は受験前に娘達に楽しそうにその当時の様子を語った。
みちると藍はそれを聞いて藤ノ宮学院へ行くのを合格発表もされていないうちから楽しみにしていたのだった。
そして無事二人とも合格を果たし念願の”私立藤ノ宮学院”へと入学する事となった。


スクールバスが校門の前に止まると新入生は入学式の行われる講堂へと向かい始めた。
講堂へは順路の張り紙がはってあるのでその通りに進めば講堂へ着ける。
みちると藍もスクールバスを降りるとその順路に従って講堂へと歩き始めた。
講堂へと歩く途中、藍はみちるに”髪の毛結んだ方がよくない?”と言ったがみちるは”大丈夫だよ”と言ってそのまま講堂へと向かって行った。
”入学式会場”という看板と講堂の入り口が見えた時、みちるは講堂の入り口に立っていた中年の男性教師に声をかけられた。
「おい、そこの。髪の毛はどうした?パーマは禁止のはずだぞ!」
そう言いながらその男性教師はみちるの右肩をぐっと掴んだ。
みちるは振り向くと”ああ、またか”と思いながら説明をはじめた。
「これはパーマじゃなくて癖毛なんです。生まれつきこうなんです。面接の時にも聞かれましたけどその時は説明したら、このままで問題無いって言われました。」
と男性教師に説明した。しかし、その男性教師はみちるの説明に納得がいった様子も無く、さらにみちるへと強い言葉を投げかけてきた。
藍はみちるの後ろで”またか”と心の中でつぶやいた。小学校・中学校と毎年この光景を藍は見せられていたので、みちるが次に出る行動もおおよそ予測できた。
みちるは近くの水道の水のみ場へ行くと頭から水をかぶり
「これでわかりましたか?」
と男性教師へと言った。しかし、いつもと違いそれが逆効果だったらしく、男性教師の言葉からはみちるを非難する言葉が発せられていた。
藍は”持ってきたものが役に立つ事になりそうだなぁ・・・さすがにそれは避けたいなぁ。”と思いみちると男性教師の間に割って入った。
「まあ、先生もそんなに興奮しなくてもいいんじゃないですか?私、幼稚園からこの子と一緒ですけど間違い無く癖毛ですよ。」
と男性教師に向かって説明をした。
が、男性教師の怒りは収まることなく今度は藍へと非難の言葉を発しはじめた。
その男性教師の行動を見て藍は”ヤバイ!”と思ったが時既に遅し。


みちるはキレた。


キレて藍の予想した通りの行動をとった。
まず男性教師に向かってこう言った。
「じゃあ、どうすれば納得していただけるんですか。」
その声はいたって冷静だが藍にはみちるが怒りを押さえているのがわかった。
みちるのその言葉に男性教師は”出来るわけ無いだろう”というような言い方で
「そうだな今すぐその髪を切れば納得してやるよ」
と意地悪そうに答えた。もちろんそれはみちるに対する嫌がらせで、みちるが自分に向かって”校則をやぶってごめんなさい”と言うように仕向けるような言い方だった。
しかし、みちるはそんな”普通の子”ではなかった。
おもむろにカバンの中からペンケースを物色し、中からカッターを取り出し左手で髪の毛を掴むと、髪へと向かいカッターの刃をつきつけた
男性教師はあわてて
「おい待て!」
と言ったが、その時にはすでにみちるの髪は自らの手によって切られたあとだった。
みちるは左手に自分の髪を持ち男性教師に詰め寄ると
「これでいいんですね、では失礼します」
と言って講堂とは反対方向へと歩き始めた。それを見た藍は”これが役に立つ事になるとは・・・”と肩をおとしつつみちるの後を追っていった。
男性教師はしばらく呆然とすると
「なんだ、あの変わった生徒は。」
とつぶやいた。



みちるは怒りに任せて講堂とは反対方向に歩いたもののまだ学院内の構造は良くわからないのに気がつき立ち止まった。
そして一言。
「やっちゃったよ。」
と言って肩を落とす。みちるも自分ではわかっているのだが直せない”悪い所”なのだ。
”わかっているのになぁ・・”と思いながらみちるは近くの階段に座った。
すると後ろから
「本当に”やっちゃったよ”だよ」
と藍の呆れたような声が聞こえてきた。
藍は肩を落としながらみちるの正面に行くと、みちるの肩をつかみ
「準備してきたものが役に立つ事になっちゃったよ。」
と言って大きなため息をついた。
みちるは藍に向かってすまなそうな顔をすると
「ごめん、藍。でも準備してきた物って何?」
と聞いた。
すると藍は持ってきた大きい紙袋から美容室で使われる大きなケープと髪の毛を切るはさみ、そして真新しい制服の上着とブラウスを出した。
みちるはその中身に驚き立ちあがると、口をパクパクさせると藍に向かって
「あんた、私がこうすると予測してたの!?」
と大きな声で叫んだ。すると藍は
「当たり前。一体何年一緒にいると思ってるの?ま、髪の毛切るまでいかない事を願ってたけど、あの男性教師に睨まれたのはマズかったね。」
と苦笑いした。
そしてみちるに向かって
「とりあえず入学式にでなきゃね。叔母さんびっくりすると思うけど。」
そう言いながら美容師がするようにみちるへケープをかけて階段に座らせた。
藍は髪の毛を切りながら
「入学式前に叔母さんと話してたんだよね、もしかしたらこうなるかも・・・って。だけど本当に予想通りになるとはやってくれるよ。」
と笑いながら話した。
「あんたといると本当に退屈しないよ。むしろこっちを忙しくさせてくれてホント困る。」
と言うとみちるの頭を軽く小突いた。そして
「よしこんなもんだろ。プロじゃないからこれで我慢してよ。」
と言うとみちるに鏡を渡した。渡された鏡の中には朝とは違うショートカットの”早瀬みちる”がいた。
「10年伸ばし続けた髪をいとも簡単にあんな事で切っちゃうんだから。あんたには呆れるよ。全く。」
藍はそう言うと髪の毛を切る用具を紙袋の中に入れ、みちるに上着とブラウスを変えるように言った。
するとみちるは
「え!!ここで?ここ外だよ?!」
と藍に言ってみるが藍は
「自分が悪い。さっさと着替えれば問題なし。早く着替える!」
とみちるの意見を聞き入れる様子はない。その藍の様子にみちるは諦めて着替えはじめた。
すると上から
「こんな所で着替えないでこっちで着替えたら?」
と言う声が聞こえてきた。二人は上を見上げると、2階の渡り廊下から上級生と思われる女生徒がこちらを見ていた。
二人はその女生徒を見ると顔を見合わせその女生徒に向かい
「ありがとうございます。そこにはどうやって行けばいいんですか?」
と声をあわせて言った。
すると女生徒は笑いながら
「あなたたちの座っているその階段を上がればいいのよ。早く上がってらっしゃい。入学式がはじまるわよ。」
と二人に答えた。
二人は自分達の座っている階段を上へと歩き始めた。


階段を上りきると先ほどの女生徒が二人を待っていた。
身長は165前後。髪の毛は肩よりも少し下まで伸ばし優しそうな顔立ちの人だった。
女生徒は二人にむかって
「こっちよ」
と言うと教室と教室の間にある廊下にどうみても”不自然についているドア”へと向かっていった。
二人は何かおかしい、と思いながらもその女生徒の後ろについてそのドアへと入っていった。


”不自然についているドア”をあけるとそこは一つの部屋になっていた。無理矢理作ったようにみちると藍には思えたが、今は着替えが先決なのでそこは口に出さずに女生徒に礼を言うとみちるは着替え始めた。
”っていうかここ渡り廊下だよね。無理矢理ドアつけて部屋にしてるみたいだけどいいの?”
みちるはそんな事を考えながら手早く着替えをすませた。そしてみちると藍は女生徒に礼を言うとはずかしそうに
「講堂までの道教えて下さい。」
と言った。女生徒はなんだそんなことかというような顔をして
「お安いご用よ。講堂まで案内してあげる。ついてらっしゃい。」
と言って歩き始めた。みちるはまだ女生徒の名前を聞いていなかった事に気づき
「あの、お名前を教えていただけますか。あらためてお礼に伺いたいんですが。」
と言うと女生徒は
「学校生活がはじまればすぐに私の名前はわかるわ。お礼がしたいならその時に来てちょうだい。」
と言って笑うと講堂へと歩き始めた。みちると藍は歩きながら顔を見合わせると今度は藍がその女生徒へ
「でも、大勢の生徒がいるのに本当にわかるんですか?」
と疑問をぶつけた。すると女生徒は自信たっぷりに
「絶対にわかるはずよ。安心して。さあ講堂についたわ。」
と立ち止まると二人に微笑みながら言った。
「入学式が始まるわ。それじゃあね。」
と言って女生徒は立ち去っていった。
二人は女生徒へ向かい一礼すると講堂へと走っていった。


入学式が終り、二人は同じクラスだった事に喜んだがしかし朝の騒ぎについて、二人は担任の教師からこっぴどく叱られた。
あのさわぎになったのだから仕方がない、と二人は担任の言葉を受け入れた。
担任から開放され学校での1日が終り二人が帰路に着く時、学校の門の所で上級生と思われる男子生徒が二人を待っていた。
その男子生徒の風貌は身長170~175センチ。少しやせ気味で、肩まである髪の毛を一つに縛っていた。そしてたれ目。
男子生徒は二人の目の前に立つと
「へー、これが部長の言っていたコかぁ。うん。なかなかいいね、面白い。」
とみちるをジロジロとみると一人納得がいったというような感じでウンウンとうなずいていた。
みちるはその様子をみて男子生徒に向かい
「あの・・・」
と声をかけるがその男子生徒はみちるの前に手をバンと出すと
「聞くのは待って!明日来ればわかるよ。だから今はナイショだ。」
とニヤリと笑うと
「じゃあ、明日学校で。じゃあねーん」
といって去っていった。
みちると藍は何も分からずその場で呆然と男子生徒が立ち去っていくのをみているしかなかった。
そしてしばらくすると藍がボーっとしながら
「・・・みちる。帰ろ。」
と言った。その言葉にみちるも
「そだね。今日は疲れちゃった。また明日って言ってたし、また明日考えよ。」
といって藍の顔を見た。


どうやら二人の高校生活は”普通”のものにはならないようである。


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